ここ何年かのウィスキーブームはすごいものがありますね。
おかげで国産のウィスキーは常に品薄状態、国産ウィスキーに留まらずスコッチもバーボンも品薄で価格もどんどん高騰してきています。
なかでもファンが多いのが「シングルモルト」と呼ばれるウィスキーですが、ここ何年かのブームで初めて知ったというかたも多いようです。
興味を持つかたが増えるのはバーテンダーとしても嬉しいことです。
が、シングルモルトは非常に奥が深く、様々な専門用語なんかがあるちょっとややこしい世界でもあります。
そこで今回は、シングルモルトをより深く楽しむためには必ず知っておきたい「オフィシャル」と「ボトラーズ」の違いをご紹介したいと思います。
是非最後までチェックしてみてください!
シングルモルトとは?

まず重要なのは、シングルモルトとはなんなのか?ということですね。
シングルモルトとは「大麦麦芽100%を原料として、ひとつの蒸溜所で作られたウィスキー」のこと。
主な産地はスコットランドで、単純にシングルモルトというとスコッチのシングルモルトを思い出す人がほとんどかもしれません。
ちなみに「スコッチ」とは、スコットランド産のウィスキーの総称で、このスコッチも細かく分けると3つに分類することができます。
それは
シングルモルト・スコッチウィスキー
グレーン・スコッチウィスキー
ブレンデッド・スコッチウィスキー
の3つです。
シングルモルトと言えばスコッチが代表的ですが、産地はスコットランドだけではありません。
最近はフランスやイタリア、アジア地域やインドなどでも作られています。
もちろん日本でも。
日本の代表的なシングルモルトと言えば、「山崎」や「余市」などが有名です。

そしてNight Marketがある山梨県北杜市の「白州」も日本が世界に誇るシングルモルトウィスキーです。
ついでに言うと、最近居酒屋さんなどでも見かける「知多」は愛知県産のグレーンウィスキー。

さらについでに言うと、もはや高嶺の花となりつつある「響」はシングルモルトウィスキーとグレーンウィスキーをブレンドして作られるブレンデッドウィスキーに分類されます。
えー、長くなってしまいました。
まとめると、シングルモルト・ウィスキーとは
- 大麦麦芽100%で作られている
- ひとつの蒸溜所で作られている
- 以上の条件で作られたウィスキーをボトリング(瓶詰)したもの
と言ったところでしょうか。
オフィシャルボトルとは?
さてさて、あまり聞き慣れない「オフィシャルボトル」というワードですが、ウィスキー、特にシングルモルトではなかなかに重要なワードです。
簡単に言うと
「オフィシャルボトルとは蒸留所がウィスキーを製造、熟成、ボトリングまでを行ってから出荷したもの」
いわゆる蒸留所公認、蒸留所のオフィシャルなウィスキーの事を表します。

オフィシャルボトル 蒸留所の名前が大きく書かれています
日本のウィスキーを例に挙げると「山崎」「白州」「余市」などの一般的に売られているウィスキーは全てがオフシャルボトルです。
「そらそうだろう、他にどんなものがあるんじゃい!」
と思いますよね。
でもここからが面白いんです。
ボトラーズとは?

ボトラーズボトル オシャレなラベルや細かい情報が書かれたラベルが多い
ウイスキーには (特にシングルモルトのスコッチに多い) オフィシャルのウイスキーに蒸留所以外の業者の手が加わったモノが存在します。
その業者というのが「ボトラーズブランド」呼ばれる人たちです。

ボトラーズのウィスキーは、オフィシャルボトルのウィスキーをボトラーズが1樽単位で購入し、独自に熟成やボトリングを行ったウィスキーです。
まず、ボトラーズはその目利きによって熟成途中のウィスキーを蒸留所から樽単位で購入します。
味見をして
「お!この樽いい感じだな」
なんて言ってるのかもしれません。
そのまますぐにボトリングされることもあれば、さらに熟成をかけることもあります。熟成する場合は違う樽に移し替えることもあります。
「このウィスキーはシェリーの空き樽で熟成したほうがいい仕上がりになるぞ」
なんて言ってるのかもしれません。
ボトリングのタイミングも当然ボトラーズが決めます。
オフィシャルボトルでは12年熟成、18年熟成しかラインナップがなくても、ボトラーズのウィスキーでは8年熟成や30年熟成など、オフィシャルでは出回らない熟成年数のモノがたくさん存在しています。
さらに面白いポイントはその希少性の高さ。
ボトラーズのウィスキーはそれこそ1樽分しかない、なんてものがたくさんあります。
樽の大きさにもよりますが、1樽からボトリングできるのはわずか200~300本しかありません。
とあるボトラーズブランド、仮に「A社」とします。
A社が白州のウィスキーを1樽だけ購入したとします。買った樽は白州の倉庫ですでに8年の熟成を経ています。
A社はその樽を自社倉庫に持ち帰り、そこからさらに12年の熟成をかけました。
合計20年の熟成を経た白州のウィスキーは、A社の目利きによって「今のタイミングで売り出すのがベスト!」と判断されます。
さっそく樽から瓶へとボトリングしていきます。買った樽からは200本だけボトリングができました。
A社は独自のラベルをボトルに張って「A社ボトリングの白州 20年熟成 200本限定」として売り出します。
世界に200本しかない、A社による熟成とボトリングの白州20年です。
ざっくりとしていますが、これがボトラーズのウィスキーです。
さらに面白いポイント「カスクストレングス」

カスクストレングスの表記
ボトラーズの面白いポイントのひとつに「カスクストレングス」のウィスキーが多い、という事があります。
「カスクストレングス」とは、「樽出し原酒」というような意味です。
熟成前のウィスキーはアルコールが70%以上もあります。熟成中に少しづつアルコールが揮発していきますが、それでもボトリング前で50~60%くらい。
この状態でボトリングしたウィスキーのことを「カスクストレングス」と呼びます。
オフィシャルボトルのほとんどは、そこに加水をしてアルコールを40%くらいに調節してからボトリングされています。
その理由は1樽1樽でウィスキーの味やアルコール度数は微妙に違うため。オフィシャルボトルでは膨大な数のストックの樽をブレンドして加水しています。加水とブレンドを行い、常に味を一定に保つためです。

ボトラーズでは加水やブレンドを行うことは多くありません。
樽から出したほぼそのままの状態でボトリングしているので、アルコール度数も50~60%あるウィスキーが珍しくないのです。
蒸留所の味というよりは、ボトラーズの目利き、さらには1樽での味わいの違い、樽から出したそのままの味を楽しめるのがボトラーズボトル、そしてカスクストレングスの面白いところです。

ボトラーズブランドはたくさんある!
しかもボトラーズブランドというのはたくさんあるのです。
イギリス、イタリア、ドイツなどなど様々な国にボトラーズブランドが存在します。
さらにブランドによって目指す方向やこだわりも違います。
先ほどの例で例えると、「A社の白州20年」と「B社の白州20年」では全然違うウィスキーだったりするのです。
A社は「白州」が得意だけど、B社は「山崎」のボトリングが得意、なんてこともあります。
さらに「余市」はC社にか樽を流さない、なんてこともあるのです。
ひとつの蒸留所で作られたシングルモルト・ウィスキーですが、このボトラーズによって無限とも言える広がりを持っているのです。

Night Marketにあるボトラーズボトルをご紹介!
長々と書きましたが、実際に味わってみるのが1番です!
Night Marketでもボトラーズのシングルモルトをご用意しています。
いくつかピックアップしてご紹介していきますね。
「ゴードン&マクファイル」 プライベート コレクション カリラ2001年 エルミタージュ ウッドフィニッシュ

絶対的な品質と膨大な古酒のストックを誇る「ゴードン&マクファイル」。
1896年にスコットランドで創業した、老舗にして最重要のボトラーズです。
このボトルは、その「ゴードン&マクファイル」がボトリングしたスコットランドのアイラ島にある「カリラ蒸留所」のウィスキーです。
2001年にカリラで蒸留され、ゴードン&マクファイルによって2015年にボトリング。
約14年の熟成です。
ボトリングの18ヶ月前に、フランスはブルゴーニュ・エルミタージュ地区のワインを熟成していた空き樽に移し変えられ、ワインの香りを載せた仕上がりとなっています。

2001の上に書かれているHERMITAGE WOOD FINISHの文字

生産本数は3600本。アルコール度数は45%です。一般的なウィスキーよりは少しアルコールが高めですが、カスクストレングスではありません。
カリラ蒸留所本来のキャラクターである木炭のようなスモーキーさとフレッシュでオイリーで甘さを感じる風味に、エルミタージュワインのチェリーやベリー、レーズンのような風味がうまく乗っています。
美しくエロティックな味わいの美酒です。1杯1600円。
高くありません、めちゃくちゃ安いです。
「イアン・マックロード」 アズ ウィ ゲット イット

スコットランドのボトラーズ「イアン マックロード」がボトリングした「アズ ウィ ゲット イット」。
イアンマックロードはシングルモルトスコッチの蒸留所「タムデュー」や「グレンゴイン」を所有するイケイケのボトラーズです。
この「アズ ウィ ゲット イット」ですが、実際にはそんな名前の蒸留所はありません。
ウィスキーは蒸留所の名前がそのまま商品名になることが多いですが、ボトラーズボトルの場合は製造元の蒸留所の名前を非公開にする場合が結構あります。

その場合はこのようにカッコイイ名前が付けられたりします。
非公開の為、製造元の蒸留所がどこなのかは味わいながら想像するしかないのですが、それもボトラーズボトルの楽しみと言えるのではないでしょうか。
ちなみにこの「アズ ウィ ゲット イット」、中身はスコットランドのアイラ島にある「ラガブーリン蒸留所」のウィスキーではないかと言われています。
色は薄いゴールドで若々しくシャープな味わい、熟成期間は短めな印象です。がっつりと来るスモーキーな香りはたしかにラガブーリンを感じますね。
実際に8~9年熟成のラガブーリン、という説が濃厚なんだそうです。

左がボトラーズボトルのラガブーリン(多分) 右はオフシャルボトルのラガブーリン
アルコール度数は61.7%。これぞカスクストレングス!というパワフルさ。
名前も蒸留所の職人が樽出しのウィスキーのことをそう呼んでいたことに由来しているそうです。
「AS WE GET IT=手に入れたまま」、樽からだしてそのままって訳です。
カッコいい名前だ、、
味わいはパワフルでシャープ!
ビターでさっぱりとした風味ですが、アルコールとスモーキーさのパンチが効いています!
飲み手を選ぶ1杯かもしれません。僕は大好きな酒です。
1杯1000円。安い!!
「ブラックアダー」 ロウカスク クライヌリッシュ 1995 19年

ブラックアダーは1995年に創業した比較的若いボトラーズですが、独自の発送から生み出されるオリジナリティあふれるボトリングと品質の高さで大人気のボトラーズです。

この「ロウカスク」というシリーズは読んで字のごとく「生の樽」という意味です。
当然カスクストレングスですが、ただのカスクストレングスではありません。
ウィスキーは樽で熟成されますが、その樽は木製です。ボトリングするときは樽の木片やその他の不純物を取り除くためにろ過が行われています。それはカスクストレングスでも同様です。
しかしこのろ過の段階で樽の中のウィスキーは数%が失われてしまいます。
ですが、このロウカスクシリーズでは大きな木片を取り除くくらいのろ過しかしていません。
ボトリングの工程で失われるウィスキーは1%にも満たないとか。
なので、小さな木片などがボトルの中に含まれているという驚きのシリーズ。極めて樽の中に近い状態でボトリングされた、まさに「生の樽のウィスキー」です。
ブラックアダーによるこのボトリング、製造元の蒸留所はスコットランドのハイランド地方にある「クライヌリッシュ蒸留所」です。
蒸留は1995年、ボトリングは2014年の19年熟成で、熟成にはシェリー樽が使われています。
総ボトリング数は244本。日本への割り当てはわずか60本のみというレアボトルです。

244のシリアルナンバー入り ボトルの中には木くずのようなものが、、
シェリー樽由来と思われるオイリーでナッティでレーズンのような甘さと、クライヌリッシュの特徴でもあるわずかな塩気。めちゃくちゃ濃厚な塩キャラメルのような風味を感じます。
ドライフルーツやバターサンドのようなリッチで濃厚な風味、53%のアルコールから来る力強さを感じますが、アルコールのキツさは全く感じません。
芳醇な味わいの素晴らしい1本です。
1杯1800円ですが、満足頂けると思います。自信をもっておすすめできる1杯です!
さいごに

シングルモルトのオフィシャルとボトラーズについて書かせて頂きました。
いろいろと書きましたが、ウィスキーを楽しむのに知識は別に必要ありません。
なんか美味いのくれ!と言って頂ければ、美味いウィスキーをチョイスさせて頂きます。
ですが少しでも興味を持って頂ければ、ウィスキーの楽しみは何百倍にも広がります。
ハイボールで飲むだけがウィスキーではありません。
いいウィスキーはいい値段がしますが、極上のウィスキーを楽しむ時間はとても素晴らしい時間だと思います。
極上の美酒をNight Marketで楽しんでみませんか?
皆さんのお越しをお待ちしています!